「涙とは、その出来事に触れた自分がかわいそうで流れるものです」
そう、偉い学者さんが言っていた。多分”科学的”にはそれが正しいのだろうとは、思う。思うのだけれど。

彼女が彼を思って流す涙は、少しなりとも彼のために流しているのだと信じてしまう。

だって、そうでなければ彼女があんまりではないか。
愛しい人を想って泣いているのがすべて嘘だなんて、いくら何でも酷すぎるではないか。
横に立つ僕を支えにするでもなく、ただくずおれて泣く彼女が可哀想ではないか。

彼女のブレザーがまだら模様になった頃、僕は一粒だけ、ただ自分のために泣いた。

涙をぬぐって立つ彼女が、ずっと喪に服すことがわかってしまったから。
長かった初恋、引きずった横恋慕も報われないと知ってしまったから。



果たして彼女は彼に添い遂げ、俺は別れの時になって、彼女のために一筋の涙を流した。
籍も入れられなかった二人が向こうでは一緒になれるようにと、せめてそれくらいは叶えばいいと。